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広島高等裁判所 昭和28年(う)125号 判決

控訴人 原審検察官 土井義明

被告人 堀口久次

弁護人 馬場照男

検察官 栗本義親

主文

本件控訴を棄却する。

理由

検察官の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

控訴の趣意第一点(窃盗の公訴事実に関する誤認)について

論旨は原審が窃盗の公訴事実につき、被告人に対し、犯意を認めるに足る証拠なしとして無罪の言渡をしたのに対し、控訴趣意書に指摘の各証拠に基づいて、窃盗の犯意を肯定するに足りることを主張するにある。而して記録を検討すると、所論の各証拠によれば、被告人において、その採取した砂利が他人の占有並びに所有に属するものであることを認識していたのではないかと推測することができないこともない。

しかしながら、被告人の採取した砂利が果して公訴事実に指摘の三名の被害者の所有し管理していたものであるかの点について、職権で調査をすると、以下に説明する如く、必ずしもこれを肯定することができないのである。

即ち、原審における証人中村浦平、同中本節雄、及び同河井暢の各供述を記載した公判調書並びに当審における証人中村浦平及び同河井暢に対する各尋問調書によれば、右証人等は本件砂利が中本節雄、河井暢及び河合照一の所有管理していたものであるかの如く供述しているけれども、その供述内容を仔細に検討し、且当審における検証調書の記載及び記録中の他の証拠を綜合して考察すると、右の各供述は信用し難く、本件砂利が、右三人の所有し管理していたものであることを確認するに足りないのみならず、むしろ、本件砂利は右三人の所有地の延長である海浜とは所を異にした区域で、しかも満潮の際には海面下に没する海浜で、個人の私有に属しない区域に存在していたものと認められる。従つて窃盗の公訴事実は犯意を論ずるまでもなく、本件砂利が前記三人の所有管理に属していたものであることの証明に欠け、犯罪の証明なきものといわねばならない。

而して、斯くの如く私人の所有管理に属しない海浜の砂利については、国家又は地方公共団体の所有に属するものと考えられないこともなく、一応その管理に服すべきものと認むべきである。しかしながらその管理は公共の利用を確保するため等の行政的管理に過ぎず、その侵害に対し刑法の窃盗罪の規定によつて保護することを必要とする程度の管理占有とは認められない。

これを本件について見るに、本件砂利の採取区域については、山口県国有産物採取規定(大正一四年六月二三日山口県令第四六号)が適用されて、その砂利の採取については、山口県知事の許可を要する旨の制限があるけれども、刑法の窃盗罪の規定によつて保護されるべき所持に該当する管理が実施されていることを認めることができない。

然らば本件公訴事実は窃盗罪の客体たる砂利に対する所持の点について、以上いずれの見地からいつてもこれを認めることができないから、原判決は結局において正当である。論旨は理由がない。尤も本件砂利の採取が或は行政的取締法規に違反し、或はこれによつて他人の所有地を崩壊せしめる等のことがあれば、その理由によつて法律上の責任を問われることはあり得ることを注意すべきである。

向第二点(量刑不当)について

訴訟記録を検討すると、本件傷害は被告人と原審相被告人今田春夫等の乗船していた日宝丸に、被害者側の乗つていた進栄丸が接触し、日宝丸が損傷を受けたことに憤慨した被告人が、原判示犯行に及んだのであつて、これを以て準強盗にも相当する案件であるとの検察官の所論は相当でない。

而して傷害の被害者との間のみならず、その原因となつた砂利採取に関する紛争についても、円満に示談解決ができ、被害者において処罰を望んでいないことが明らかであり、その被害の程度その他諸般の情状を考慮すると、原判決の刑は相当と認められる。論旨は理由がない。

仍て刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却すべく、主文のとおり判決をする。

(裁判長判事 伏見正保 判事 村木友市 判事 三井明)

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